利益を増やしたいけれど、何から取り組めばよいかわからない。余裕のある資金繰りをしたいけれど、方法がわからない――。
そんなとき参考になるのが、2026年版小規模企業白書(以下、「白書」)です。
白書では、小規模事業者(以下、「事業者」)へのアンケートなどをもとに、「どのような取り組みをしている事業者ほど成果が出ているのか」が分析されています。
この記事では、その中でも「財務・会計」に注目し、利益向上につながる習慣をわかりやすく紹介します。
1.利益上昇が期待できる習慣
①原価を詳細に把握する
白書によると、原価を詳細に把握している事業者ほど、営業利益率が「上昇した」と回答する割合が高い結果となりました。
具体的には、原価の把握を「製品・商品・サービス別」「事業単位」「全社単位」「ほとんど把握していない」の4段階で比較した結果、より細かく原価を把握している事業者ほど、利益率が上昇している割合が高いことが分かりました。
その上で、原価を詳細に把握することで得られた効果の第1位は、「適正な価格設定ができるようになった」だと述べられています。
原価を詳細に把握しているかどうかは、費用変動分を販売価格へ転嫁できるか、にも影響していることも示唆されています。白書によると、原価を詳細に把握している事業者ほど、費用変動分の50%以上を販売価格へ転嫁できた割合が大きくなっています。
利益上昇のために、今日からできることはこちらです。
- まず全社単位での原価を把握してみましょう。
- 次に、事業単位や商品単位といった、詳細な原価を把握しましょう。
- 詳細な原価から、原価の変動や、適正価格を確認しましょう。
- これらを説明根拠に、取引先への適正な価格設定や、費用変動分の価格転嫁の交渉を進めましょう。
診断士から一言
原価の把握は、「値上げのため」だけでなく、「改善すべき商品」や「伸ばすべき商品」を判断する材料にもなります。まずは全社単位から始め、少しずつ商品・サービス単位まで見える化していくことをお勧めします。
②損益分岐点売上高を把握する
白書によると、損益分岐点売上高の把握に取り組んでいる事業者のほうが、営業利益率が「上昇傾向」と回答した割合が高いという結果が示されています。
「最低限必要な売上」を把握していることが、利益改善につながる可能性があるということです。
損益分岐点売上高を把握すると、「赤字にならないために最低限必要な売上」が明確になります。その数字をもとに、年間や月間の売上目標も設定できるようになります。
目標から逆算して、「もっと受注しなければいけない」「売上が落ち込みそうな月を見越して営業しよう」等の行動に繋げることもできます。
白書からは、このような経営管理の積み重ねが、営業利益率の向上につながっていることがうかがえます。
利益上昇のために、今日からできることはこちらです。
- 年間の損益分岐点売上高を把握しましょう。
- その売上高から、毎月の目標売上高を決めましょう。
- 目標売上高の到達に向けて、受注や営業活動をしましょう。
- 目標売上高に到達しなかった場合、目標との差が生じた理由を確認し、受注件数や価格設定など改善できる点を見直しましょう。
診断士から一言
損益分岐点売上高は、一度計算して終わりではありません。原価や販売価格が変われば必要な売上高も変わります。少なくとも年に一度は見直し、経営判断の基準として活用することをお勧めします。
2.余裕ある資金繰りが期待できる習慣
①資金繰り計画を策定する
白書によると、資金繰り計画を策定している事業者のほうが、資金繰りに「余裕がある」と回答した割合が、やや高くなっています。
資金繰り計画策定の効果としては、
- 資金不足時期の把握
- 収支見通しの精度向上
が上位に挙げられています。
また白書では、資金繰り計画を策定している事業者のほうが、回収サイト見直しに「取り組んだ結果、実現した」と回答した割合が高くなっています。将来の資金不足が見えることで、「代金をもう少し早く回収できないか」といった交渉の必要性にも気付きやすくなるのかもしれません。
資金繰り計画を作成すると、将来の収支を見通しやすくなり、資金不足になりそうな時期を事前に把握できます。その結果、早めに借入を検討したり、回収サイトの見直しを交渉したりするなど、資金不足を避けるための対策を取りやすくなるのだと考えられます。
余裕ある資金繰りのために、今日からできることはこちらです。
- 資金繰り計画を策定しましょう。
- その計画で、資金不足の時期を事前に把握しましょう。
- 資金不足の原因を考えましょう。
- 回収サイト見直しが有効なら、資金繰り計画も説明根拠に使い、取引先と交渉しましょう。
- 金融機関や商工会への融資の相談は、早めに行きましょう。
診断士から一言
資金繰り計画は、金融機関から融資を受ける際にも重要な資料です。設備投資や人材採用などの判断にも役立ちます。
「資金が足りるか」を把握するだけでなく、「資金をどう活かすか」を考えるためにも、ぜひ作成しておきたい計画です。
②在庫有高の確認頻度・精度を上げる
白書によると、資金繰りに余裕がある事業者ほど、在庫有高(在庫として保有している商品の金額・数量)を月1回以上確認している割合が高いことが分かりました。また、売上計画や実績を基に適正在庫を判断している事業者ほど、資金繰りに余裕がある傾向も見られます。
経験や勘ではなく、売上計画や実績に基づいて適正在庫水準を定め、頻繁に在庫有高を確認する。これにより、売れ残りによる在庫の滞留や、必要以上の仕入れを防ぎやすくなります。その結果、在庫に寝ていた資金を減らせるため、キャッシュフローの改善につながると考えられます。
余裕ある資金繰りのために、今日からできることはこちらです。
- 売上計画や実績から、在庫の適正水準を決めましょう。
- 在庫有高を月1回以上確認し、無駄や不足を把握しましょう。
- 在庫が適正水準になるような発注ルールを作りましょう。
診断士から一言
在庫は不足すれば売り逃しに、多すぎればキャッシュフローの悪化に繋がります。
在庫有高の管理は重要ですが、適正水準を維持するのは簡単ではありません。売上や季節要因に合わせて定期的に見直すことも必要です。
まずは、月1回の在庫確認を習慣にすることから始めてみましょう。
③貸借対照表を活用する
貸借対照表を経営に活用している事業者ほど、「資金繰りに余裕がある」と回答した割合が高いことが、白書で示されています。
また、貸借対照表を活用している事業者は、
- 資産と負債のバランス
- 借入金の返済能力
などを把握・分析していることが分かりました。
さらに、貸借対照表を活用することで、自社の財務状況を客観的に把握しやすくなります。その結果、金融機関との対話もしやすくなり、必要な資金を確保しやすくなる可能性が、白書から読み取れます。
余裕ある資金繰りのために、今日からできることはこちらです。
- 貸借対照表を毎月作成・確認しましょう。
- 資金ショートの可能性を確認する目安として、「流動比率」を見てみましょう。
計算式:(流動資産÷流動負債)×100%。大きいほど良く、100%以下は資金ショートのおそれがあります。 - 毎月の現預金の動きを確認し、増減の原因を考えましょう。
診断士から一言
貸借対照表で毎月、現預金の額や流動比率を「数値」として確認することで、資金の過不足を、感覚的ではなく客観的な数字で把握できます。
その結果、営業活動を強化する、支援機関に借入の相談をする、設備投資を延期する等の経営判断に結び付くでしょう。
まずは、貸借対照表を毎月確認することから始めましょう。
3.「成果を生む経営習慣」を始めるためにできること
ここまで、「成果を生む経営習慣」をご紹介してきましたが、急に始めるのは難しい、誰かに相談したい、と思っている事業者様もいらっしゃると思います。
そんな方に参考になる情報をご紹介します。
①経営知識を習得する方法
白書からは、原価管理や資金繰りに関する知識を、税理士等専門家に相談することで習得している事業者が多いことが分かります。
税理士は、決算の確定申告代行等の税務がメイン業務ですが、経営改善や資金繰り支援を得意とする方もいます。ホームページで「経営改善」「資金繰り」「経営相談」などの実績を確認してみるとよいでしょう。
経営改善のプロである、中小企業診断士に相談するのもお勧めです。中小企業診断士は、経営全体を見ながら改善策を一緒に考える専門家です。原価管理や資金繰りだけでなく、経営計画の作成や補助金活用などの相談もできます。
②経理業務を楽にする方法
会計ソフトを導入していない事業者であれば、会計ソフトの導入で、作業が楽に、正確になります。白書でも、クラウド型会計ソフトの導入効果として、「経理業務に要する時間の削減」と答えた事業者が最も多かったことがわかっています。
会計ソフトを導入すると、日々の取引を入力するだけで貸借対照表や損益計算書を自動で作成できます。さらにソフトによっては
- 原価管理
- 損益分岐点分析
- 資金繰り管理
などの機能も利用できます。
クラウド型会計ソフトにかける月額費用としては、白書では、事業者の半数以上が月額1万円以下と回答しています。
「成果を生む経営習慣」を始めるために、今日からできることはこちらです。
- 税理士や中小企業診断士を検索し、資金繰り表作成や、会計ソフト導入について相談してみましょう。
- 会計ソフトを導入していない場合、無料体験を試してみましょう。
- 会計ソフトを導入している場合、使っていない機能がないか確認してみましょう。
診断士から一言
日々の会計や経営に関する相談ができる専門家が身近にいると、とても心強いです。経営環境の変化や法改正、技術の進化に関する情報を教えてもらうこともできます。
会計ソフト導入等のDXに強い税理士や中小企業診断士も、たくさんいます。
まずは無料相談や無料体験を活用し、自社に合う専門家や会計ソフトを見つけてみましょう。
一人で悩まず、専門家の力も借りながら経営習慣を少しずつ改善していくことが、事業の成長につながります。
まとめ
2026年版小規模企業白書では、成果を上げている事業者には共通する経営習慣があることが示されていました。今回ご紹介した習慣はこちらです。
- 原価を詳細に把握する
- 損益分岐点売上高を把握する
- 資金繰り計画を策定する
- 在庫を適正に管理する
- 貸借対照表を活用する
これらは、一度にすべて始める必要はありません。まずは一つ、自社で取り組めそうなことから始めてみてください。
白書のデータから読み解いた「成果を出している企業が実際に取り組んでいる習慣」。ぜひ、自社の経営改善のヒントとして活用していただければ幸いです。
